生徒生活の原点となった教え

 

◎ 五  誓

 

昭和十九年、経校創立七十周年に当たり、紺野逸彌校長が、海軍経理学校生徒として、朝に夕にこれを唱え、自らに誓い、拳拳服膺すべきものとして示された教えである。

 十一月十日、聯合談話会の際、校長の「五誓衍義」を拝聴した。

 

一 盡忠報國  身命ヲ捧ゲテ悠久ノ大義ニ生ク

  二 敬愛協戮  私心ヲ去ッテ鉄石ノ団結ヲ固クス

  三 尚武修文  心膽ヲ錬ッテ必勝ノ實力ヲ磨ク

  四 信義誠實  操守ヲ鞏クシテ正大ノ實行ニ徹ス 
 
  五 質實剛健  困苦ニ克ッテ至上ノ本分ヲ完ウス

              至誠ニ徹シ  實行ニ徹ス





◎ 稚心を去れ(石井次男・三十七期主任指導官 訓話) 

 

 石井指導官は、われら三十七期の上に、全身全霊を傾注して下さった。厳父というよりは慈父としての温容と眼差しが忘れられない。

 しかるに、三十七期は、それにお應えできたであろうか。在校中特に三号時の日々は、万事に至らぬこと多く、一号生徒の叱咤・修正を受けること屡々で、指導官のご心労は、いかばかりであったろうか。

 そのような折、三月二十日、全員を一堂に集められて、「三十七期よ、稚心を去れ」と、厳しい戒めと、細やかな心配りと、温かい励ましの言葉を下さった。その訓話三十七カ条をここに掲げる。

一、生徒よ、稚心を去れ

一、生徒よ、純真率直なれ

一、生徒よ、大志をもて

一、生徒よ、真摯敢闘せよ

一、生徒よ、傍観的弥次気分を脱却せよ

一、生徒よ、恥を知れ

一、生徒よ、果断猛進せよ

一、生徒よ、底力をだせ

一、生徒よ、不言実行せよ

一、生徒よ、重責を自覚せよ

一、生徒よ、ずべ根性を放棄せよ

一、生徒よ、てれる勿れ

一、生徒よ、気概を持て

一、生徒よ、切磋琢磨せよ

一、生徒よ、石部金吉なれ

一、生徒よ、逞しくあれ

一、生徒よ、烏合の衆たる勿れ

一、生徒よ、大馬鹿たれ

一、生徒よ、報恩感謝を具現せよ

一、生徒よ、吾々の一挙手一投足が世界の歴史を動かす一齣たるを自覚せよ

一、生徒よ、謙虚なれ

一、生徒よ、常に最後の止めをさせ

一、生徒よ、真剣なれ

一、生徒よ、率先難事に突入せよ

一、生徒よ、一言千金なれ

一、生徒よ、学術に熱中せよ

一、生徒よ、猪突猛進せよ

一、生徒よ、日常生活に徹底挺身突入せよ

一、生徒よ、縁の下の力持たれ

一、生徒よ、進んで捨石たれ

一、生徒よ、明朗快活たれ

一、生徒よ、素裸なれ

一、生徒よ、人にみせるな自己をみつめよ

一、生徒よ、打算的なる勿れ

一、生徒よ、机上無積なれ

一、生徒よ、机下山積する勿れ

一、生徒よ、随所に主となれ

 

 







戦後生活の指針となった教え

 




昭和二十年九月 紺野校長の「生徒一般へ達」

 

 昭和二十年八月、終戦にともない、同二十日生徒隊は解散、生徒は休暇を賜り帰省することとなり、万感の思いで母校に訣別、垂水の坂を下った。

傷心の胸を抱えて、東へ西へ、それぞれの郷里や家族の疎開先等へ帰着した生徒達が、占領下の国の将来と自分の今後、加えて直面する食糧難等の問題にどう対処するか等、沈うつな日々を過ごしていた九月下旬、それぞれの県庁所在地に集められ、母校から派遣された教官のもとで、生徒の今後の進路に関する説明会が開かれた。   

この席上で示された学校当局の数々の配慮の中で、とくに心に沁みたのは、戦後の我々の人生に転機をもたらした、九月十日付紺野校長名「生徒一般へ達」であった。

この文書には、校長の教え子に対する惜別、これからの再出発への激励・訓戒・期待のお心配りが行間ににじみ出ていて、深みと温かみに満ちた文章である。この指針のお陰で我々の戦後の半生があり、今日があると言えよう。ここに全文を掲げて、感銘を新たにしたいと思う。

 

 

 

 

昭和二十年九月十日  東京都品川臺場

                   紺野海軍經理學校長

 

生徒一般へ達

一、        今回海軍生徒解員ニ際シ海軍大臣ハ特ニ一同ニ對シ訓示ヲ致サレ 諸子ノ將來ヲ深ク思念シ且ツ大ナル期待ヲ以テセラル 即チ教官ヲ各地ニ派遣サレ右訓示ヲ傳達シ且ツ進學就職等身上ヲ指導セシメラルルコトトナレリ 一同ハ克ク大臣ノ訓示ヲ体スルト共ニ派遣教官ノ指導訓示ヲ受ケテ各員ノ進路ヲ定メ以テ萬遺憾ナキヲ期スべシ

二、        諸子ノ進ムベキ道ニ関シテハ既ニ八月二十五日陸海軍人ニ賜ハリタル勅諭ニ炳トシテ明カナリ 之ヲ服行シテ聖旨ニ應ヘ奉ルベシ

三、        海軍生徒ハ十月一日ヲ以テ差免セラルルコトトナレリ 而シテ差免後ノ進退ニ関シテハ 別達ノ如ク定メラル 仍テ此際慎重ニ將來ヲ考慮シ進路ヲ定メンコトヲ切望ス 諸子入校以來苦樂ヲ共ニセル小官等ハ往時ヲ回想シテ轉惜別ノ情ニ堪エザルモノアルト同時ニ諸子ノ大成ヲ祈ッテ已マズ

四、        本校生徒タリシ諸子ニ希望スル所ハ既ニ八月下旬生徒隊解散ニ際シ訓示シタル通ナリ 即チ之ヲ要約スレバ

(一)承詔必謹嚴ニ輕擧妄動ヲ戒メ偏ニ聖断聖旨ニ應ヘ奉ルベシ 

(二)愈至誠ニ徹シ實行ニ徹シ名譽アル海軍生徒タリシ矜持ヲ失ウコトナク言動宜シク衆ヲ率ユルノ覺悟アルヲ要ス 但シ徒ラニ軍人ラシキ風ヲ吹カセ嚴メシキ態度ノミヲ持スルガ如キハ誤レリ 常ニ忠誠心ヲ内ニ包ミ禮儀正シク温和ニシテ而モ大勇アリ約言ヲ重ンジ質實剛健ナルベシ 而シテ之ヲ一貫スルニ誠心ヲ以テスルコト既ニ諸子ノ体得セル所ナリ 不言實行ハユメ忘ルベカラズ

(三)天下ノ英才タル事實ト實力トヲ新進路ニ示スベク更ニ進學スル者モセザル者モ自奮自勵其ノ業務ニ精進シ各員擧ッテ興國ノ原動力トナルベシ

今ヤ國歩艱難ノ秋ニ當リ國運ヲ將來挽回スルハ申スマデモナク青年ノ双肩ニアリ 而モ之ヲ實現スルガ為ニハ先以テ青年各個ノ修養ニ俟ツ 而モ青年再ビ來ラズ 今日ノ時コソ一刻千金今後ノ土臺ヲ築ク 各員悉ク國家有為ノ人材トナッテ一國ニ、一村ニ、一會社ニ、一職域ニ随處主ト為ランコト之即チ興國ノ原動力トナルモノニシテ 畏クモ聖旨ニ應ヘ奉ルト共ニ大臣ノ期待ニ副フモノト信ズ

五、 尚垂水及橿原分校ハ生徒帰省ノ日之ヲ閉鎖セリ 而シテ残務整理モ九月十日迄ニ之ヲ終了シ校長以下職員ハ品川本校ニ復帰セリ 品川本校モ生徒解員ニ伴ツテ自然閉鎖セラルベシ 随ツテ爾後問合セ等ヲ要スル向ハ十月十五日迄ハ品川本校ニ 其ノ後ハ海軍省教育局(東京都目黒区海軍大学校内)ニ 同局ナキ後ハ復員援護會等ニ圖ルベシ

 

(別の通達)

今回奨學金等トシテ五百円ヲ海軍大臣ヨリ支給セラル

當局ノ限リナキ配慮ヲ感謝スルト共ニ有効ニ活用スルヲ要ス

 


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