詩人と酒

                 @ 佐 藤  武 司

      

先人の詩の中で酒を詠じた詩は多い。酒といえば「一飲三百杯」と詠ずる李白であろう。

杜甫は「飲中八仙歌」の中で李白を「酒中の仙」と言い、「李白は酒を一斗飲むと詩が三百首できる」と詠っている。

 

 

○将進酒   盛唐   李白  七言古詩

 

君不見         君見ずや

黄河之水天上来     黄河の水天上より来たるを

奔流到海不復回     奔流海に到って()(かえ)らず

君不見         君見ずや

高堂明鏡悲白髪     高堂の明鏡白髪を悲しむを

朝如青糸暮成雪     朝には青糸の如きも暮には雪と成る

 (省略)

烹羊宰牛且為楽     羊を()牛を(さい)して(しばら)く楽しみを為さん

会須一飲三百杯     (かなら)(すべか)らく一飲三百杯なるべし 

(省略)

呼児将出換美酒     児を呼び(ひ )き出して美酒に換え

与爾同銷万古愁     (なんじ)(とも)()さん万古の愁いを

 

 

李白一流の飲酒観がよく出た酒の讃歌である。「(なんじ)(とも)()さん万古の愁いを」、人が背負う無限の憂愁を消すためにこそ酒があるのだという。

 

 

○行路難   其三   盛唐  李白  雑言古詩

 

(省略)

吾観自古賢達人     吾観る(いにしえ)より賢達の人

功成不退皆殞身     功成って退()かざれば皆身を(おと)す 

子胥既棄呉江上     子胥(ししょ)既に棄てらる呉江の(ほとり)

屈原終投湘水浜     屈原終に投ず湘水の浜

 (省略)

且楽生前一杯酒     (しばら)く楽しむ生前一杯の酒

何須身後千載名     何ぞ(もち)いん身後千載の名

 

 

戦国から漢代にかけての、逆境に苦しんだ人々の故事をふまえつつ、彼自身の鬱屈する心を述べ生前に一杯の酒を楽しもうと詠う。

李白(七〇一―七六三)

四川省綿陽県のひと、官職につくも讒言により追われて放浪生活を送る。詩仙と称さる。

 

 

○效陶彭沢   中唐   韋応物   五言古詩

 

(省略)

?英泛濁醪       (はなぶさ)?()りて濁醪(だくろう)(うか)

日入会田家       日入りて田家に会す

尽酔茅簷下       酔いを尽くす茅簷の下

一生豈在多       一生豈多(あにた)に在らんや                

 

 

詩題の「(なら)う」は「田園詩人」と呼ばれた陶淵明(陶彭沢)の詩と同時に彼の生き方に倣うという意。茅ぶきの家で心ゆくまで酔えば、短い一生それで十分だと詠う。          

韋応物(七三七―?)

陜西省西安の人、名門の出身。安禄山の乱で職を失い、後勉学に努め地方官を歴任する。

 

 

○秋懐詩    其一  中唐  韓愈  五言古詩

 

窓前両好樹       窓前の両好樹           

衆葉光??       衆葉は()りて??(ぎぎ)たり

秋風一披払       秋風(ひと)たび披払(ひふつ)すれば

策策鳴不已       策策(さくさく)として鳴り已まず

 (省略)

浮生雖多塗       浮生は(みち)多しと(いえど)も 

趨死惟一軌       死に趨くこと()れ軌を一にす

胡為浪自苦       胡為(なんす)れど(みだ)りに自ら苦しむや

得酒且歓喜       酒を得ては()つ歓喜せよ

 

 

韓愈四十五歳の作といわれる。当時韓愈は失策によって官職は降格され悶々とした日々を送る。その間の思いを詠じた連作の一首。

 韓愈(七六八―八二四)

 字は退之 、河南省修武県の人。幼少から苦労を重ね三十五歳にして官を得るも、剛直な性格からしばしば左遷される。

 

 

○対酒   其二   中唐  白居易  七言絶句

 

蝸牛角上争何事     蝸牛角上何事をか争う     

石火光中寄此身     石火光中此の身を寄す

随富随貧且歓楽     富に随い貧に随い(しばら)く歓楽せん

不開口笑是痴人     口を開いて笑わざるは是痴人

楽天五十歳ごろの作、人生は短いのだから、貧富によらず愉快に過ごすべきだという人生哲学を詠う。

 楽天(白居易)(七七二―八四六)

 字は楽天、陜西省渭南県の人。二十九歳で進士に及第、更に上級試験にも合格。中央の要職につくも上書を咎められて左遷される。

老いを計るに先人の詩に学ぶところは多い。

 残躯は天の赫すところ、一杯の酒を楽しむ日々を送りたいものである。

 

 

 自作の詩を一首。

 

○新年作  五言絶句    佐藤七風

 

壁間松鶴幅      壁間松鶴の幅

白首又迎年      白首又年を迎う

倍覚気根減      倍(ますます)気根の減ずるを覚ゆるに

老梅開凛然      老梅開いて凛然たり

 



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